「……証拠って……まさか……」
彩音の声が、不安げに震えている。その瞳が俺をまっすぐ射抜いた。
「……姪っ子ちゃんは本当は……優斗くん?」
胸の奥から、全身に熱が広がっていく。
俺は口を開こうとするが、言葉にならない。
横で姉ちゃんが小さく息を吐いた。
ああ、こういう時の姉ちゃんはいつも勘が鋭い。俺の心の奥まで見透かされている気がする。
「大体のことは分かったわ」
姉ちゃんの声は落ち着いていたけれど、その目は俺を逃がさない。
「私はあんたが元々、女の子になりたかったんだって、自ら望んで女の子になったってパパから聞いてたんだけど……本当は違うでしょ?」
「……」
俺は唇を噛んで、ただ黙り込む。
姉ちゃんは続ける。
「あんた、噂になってる下着を買ったんでしょ?それで女体化したんでしょ?」
言い切るように放たれた言葉が、胸に突き刺さった。
姉ちゃんは彩音に顔を向けた。
「彩音ちゃん、そういう事なのよ。陸上部の高橋くんが女体化したって話……きっと本当だと思う」
「ま、まさか……」
彩音は信じられないという顔で俺を見つめた
◆
俺は、これまで自分に起きた出来事を、正直にすべて吐き出した。
最初のきっかけは、何気なく眺めていたSNSの広告だった。そこに突然流れてきた、奇妙な商品【性別矯正下着】を半信半疑のまま購入してしまった事。
着用して数日が過ぎるうちに、俺の身体が徐々に変わってしまった事。
怖くなって、途中でやめてしまおうと思ったが、取扱説明書には『中断すると深刻なダメージを負う危険がある』と記されていて、結局、着続けなければいけなかった事。
誰かに相談したくても、「女装癖があった」というのが恥ずかしくて言えず、「ずっと女の子になりたかった」と誤魔化していた事。
二人は黙って話を聞いていた。
「とりあえず」
姉ちゃんが少し声を和らげる。
「優斗のことは私たちだけの秘密にしよう。他の誰にも言わない。いいよね、彩音ちゃん?」
「……はい」
彩音は小さくうなずいた。
「優斗くんのこと……絶対に秘密にします」
その言葉に少し安堵した。
◆
「ネットで何か情報がないかな?もっと詳しく調べてみようか」
姉ちゃんがそう言い出した。
「他に被害や同じ様な人がいないか……きっと情報は出回ってるはずよ」
言いながらスマホに文字を打ち込む。
『女体化 下着』
すぐに大量の検索結果が表示された。
「ほら、やっぱり……」
彩音が身を乗り出して覗き込む。
俺も思わず顔を近づける。
SNSの書き込みがいくつも並んでいた。
『彼氏が女になった』
『ブラをつけただけで胸が膨らんだ』
『下着で女になった人、他にもいる?』
彩音が息を呑んだ。
「……こんなに……」
俺は心臓がざわざわして、うまく呼吸ができなかった。
「俺だけじゃ……ない……」
ページをスクロールするたび、次々と似たような体験談が出てくる。
そして、ある一文に目が止まった。
『この下着で女体化した人は、性欲が異常に強い女になる。男とは違う敏感な感覚にハマって、Hな事しか考えられなくなるんだって』
「っ……」
読んだ瞬間、体の芯が熱くなった。
彩音も息を呑む。
「性欲が……強い女の子に……?」
姉ちゃんは何かを悟ったように俺を見た。
「……あんたは大丈夫なの?」
「お、俺は……今のところは……」
喉が詰まって、言葉がかすれる。
確かに男の身体と比べると、女の子の身体は敏感で、自分で触った時も、姉ちゃんに触られていた時も快楽に震えていた。
彩音は慌てて俺の手を取った。
「優斗くん、大丈夫? もし……もし何かあったら、私に相談してね。男の子だったら無理だけど……女の子同士なら……私……」
その手は温かくて、心臓が一層早く打ち始める。
「で、できる限り……協力するから」
彩音の瞳が、まっすぐ俺を見ていた。
そこには心配と……それ以外の何かが潜んでいる気がした。
俺はうまく返事ができない。ただうなずくことしかできなかった。
◆
紅茶の香りが、やけに濃く鼻に残った。
俺の胸の奥には、不安と熱が同時に渦巻いていた。
――性欲が強い女に、なってしまう。
自分の未来がぼんやりと見えない霧に覆われる。
けれど、確かに迫ってくる何かがある。
彩音の手の感触が、まだ残っている。
姉ちゃんはそんな俺を見て、意味深に微笑んでいた。
【8章へつづく…】
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