PublisherFans
Jin(鬼頭ジン)
Jin(鬼頭ジン)

fanbox


消えたカリスマ俳優の裏側

「I'm sorry to see you go, but I think I'll be leaving soon.」  それは、ある日のことだった。  都内を、とある金髪碧眼の男性がそう呟きながら歩いている。彼の名はレオといい、世界的に有名なカリスマ俳優でもあった。  そんな彼がどうしてこんな場所にいるのか? それは観光のためである。  レオは忙しい仕事の合間を縫って、大好きな国の一つである日本へとやってきていたのだ。  その日本観光も最終日に差し掛かり、彼は某国へ帰るべく空港へと向かっているのであった。 「I'm still glad I came to this country.」 レオは東京を後にするためマップを確認しながら空港へと足を進める。その最中だった。彼が男に声をかけられたのは。 「Are you a foreigner? I take souvenir photos for foreigners. How about one as a souvenir?」  レオの前に現れた男は名刺を取り出しながらこう言った。どうやら外国人向けの記念撮影を行なっている者らしい。 「Hmmm...Well, it's the last one, and if it's a memorial, maybe it's a good one.」  レオは少し考えたものの、記念になるならいいかとこれを快諾。レオは男に言われるがまま近くの木造の建物へと足を踏み入れた。 「Now, please take a seat in this chair and wait. We will begin shortly.」 「Okay.」  レオは、男に言われた通り部屋の中に設置してある椅子に座る。それはやけに派手な真っ赤な椅子で、しかしそれ以外には何もなかった。写真撮影のためとはいえそっけない空間だなとレオは思った。 「Please wait here for a moment.」 「Okay.」  レオは言われたとおり椅子に腰掛け待つことにした。  男がいなくなった後のそこは、レオと座っている椅子以外には何もない閑散とした空間だけが残った。外から漏れてくる風の音以外は特に明るいBGMなどもなく、やけに寂しげな印象をレオは抱いた。 「...you're awfully slow. What's going on?」  何分、何時間が経ったのだろう、それくらいの時間を経て、ようやくレオは疑念を抱いた。  いくら待っても、男は帰ってこない。これは明らかにおかしい。写真を撮るだけならそんなに大層な準備は必要ないはずなのに。 「In the meantime, we need to get out of here...what!?」  レオは男を探しに行こうと椅子から尻を離そうとした。が、無理だった。椅子に尻が固定されたかのように、びくともしなかったからだ。 「Why!? My body won't leave the chair!」  レオがいくら力を込めて引っ張っても椅子は体から離れる事はなく、ただ時間だけが過ぎていく。するとしばらくして、彼の身に異変が起きはじめる―― 「My clothes are changing!」  ぐにゃりと、着ていた服が液体のごとく歪んで形を造り替えはじめたのだ。 「My shoe!」  靴は真っ白な足袋に、 「My jeans!」  ジーンズは金色の袴に、 「What happened to my clothes!? Put them back on!」  Tシャツは赤と緑で構成された派手な色をした羽織にそれぞれ変わってしまっていた。 「Oh, my God! The clothes I was wearing have turned into a Japanese kimono!」  突然の変化にレオは驚くことしかできない。しかしそんなレオを尻目にその変化はさらに続く。彼の意思を完全に無視して。 「No! Stop! My face!」  レオの顔がひとりでに真っ白な白粉でコーティングされていく。その上から黒と赤の隈取が浮かびあがると、後ろからバサリと音とともに、真っ赤で長い鬘がレオの頭に装着された。 「Stop! What's with the strange appearance? Take me back to what I was!  I don't feel right...I feel like I'm not myself anymore…  No! No! Nooooooooooあああああああああ!」  わけがわからなくなったレオは、赤い髪や着物を脱ごうと無我夢中で引っ張るが、その服はどれだけ力を込めても脱ぐことも破くこともできなかった。まるで不思議な力に守られているかのように。  レオがどうしようもできないで暴れていると、ようやく男が現れた。しかし、男は先ほどのスーツ姿ではなく、着物をその身に纏っていた。 「うむ、なかなかよく似合っているな」 「なぜ...…I can't 喋れない……  what I'm、着ている、now is a……日本の着物、right?」  レオは男に疑問を投げかけようとするが、口から発せられるのは日本語まじりの奇妙な言語だった。頭の中で会話するためのアルファベットが浮かんでも、それが少しずつ日本の言語へとすり変わっている。その奇妙な感覚がレオにとってはとても気味が悪かった。 「うむ。貴様は日本の貴重な財産として生まれ変わるのだ。  私達は貴様のような人材を求めている。そして、貴様のような素晴らしい者の遺伝子もな。  というわけで、貴様の体と心は私達が回収させていただく」 「遺伝子だと……How could you possibly...?」 「人間の精液には、その人間を構成する情報が沢山詰まっている。それを増幅させるのがこの特殊な着物なのだ。貴様の外国人の情報は、この着物の中へと封印させてもらう」  男が説明を始める。日本語には明るくなかったレオだったが、何故か男の言葉がおぼろげにだが理解できていた。これもこの着物の効力なのだろうかとレオは思った。  そしてその説明から推察するに、この着物は精液が内包する遺伝子情報を、彼の“出てはいけない部分”まで射させてしまう着物らしい。つまり、射精してしまえば、もう二度とレオは元には戻れない、ということだった。 「……そ、そんなの嫌だ! No, please!」 「さあ、精液を出し切ったあとは、日本が誇る歌舞伎役者として生まれ変わっていることだろう」 「巫山戯るな! You need to stop this right now! You let me go right、ナ……はうっ!」  勝手なことをのたまう男に反抗しようとするも、全身を炎で焼かれたような“熱さ”が彼の全身を駆け巡った。少しでも指や足をその場からずらそうなものなら、すぐにでも全身の熱が身を焦がしにやってくる。快感という名の熱が。 「抵抗しても無駄だ。すでにその着物は貴様の遺伝子を欲している。潔く貴様の精を私達に捧げよ」 「I refuse! I would 絶対、pass on my gen……ふああっ!」  口では抵抗の意を見せるレオだったが、肝心の肉体はその身を焼き尽くすような快感が常に全身を襲っていて、レオの精神は既にその炎に陥落する寸前であった。 「拙者は……For the sake of 俺の夢、And for 俺のファン、I can't just disappear!  So...」  自らの夢、矜恃のためにレオは体から無限に湧き出る快感を堪えながらその力を込める。しかし、それは彼の終わりを早めるだけの行為であった。 「うおおおおあ!」  すでに限界までいきり勃ち、バットのようになっていた股座の肉棒から、大量の白濁液が噴き出した。その勢いはとても強く、褌と袴を突き抜けながらボタボタと床へこぼれ落ちていく。その中には、レオの大切なものが沢山詰まっていた。 「ああ……お、拙者の精子が……っ!?」  してはいけないことをしてしまったことに、レオは絶望する。しかし、レオは自分の中にある大きな違和感によってその絶望すら過去のものとしてしまった。 「え、英語が喋れない……どうやって喋っていたかも思い出せない……そんな馬鹿なことがあってたまるか!」 「別に構わないだろう? 貴様は日本人なのだから」  確かに自分は日本人ではないはずで、日本語は喋ることができず、英語を喋っていたはずだ。しかし今はそれが反転して日本語しか喋らないでいる。  男の言う通り、レオは今は日本人でしかなかった。日本人としての進行を先程の射精により進めてしまったのだ。 「さあ、次はその心構えだ。我が国の新たな立役者としてその身を私達に捧げよ!」 「やめてくれ! 嫌だ! 貴様がどう言おうと、拙者は、拙者を……! うぐっ……」  しかし、未だに全身を侵す快楽によりレオの戯言は中断される。射精したばかりの肉棒は衰えるどころかさらにその怒張を強めているのが股座の疼きから分かる。金玉袋の中のオタマジャクシがすぐにでも解放されようと暴れている。もうレオは自我を保つことも容易ではなかった。 「はあっ……うっ……拙者は、拙者は……」  足を包む足袋の感覚が心地良い。全身の着物の肌触りが、レオの意識をどこか遠い闇の中へと誘う。 (せ……拙者は、は世界を股にかける名俳優のはずで、気持ち良い、でも今は一端の日本人でしかなくて、これから拙者は、気持ち良い、大きな陰茎が、拙者の全てを奪っていく……気持ち良い……)  気持ち良い、とレオが思う度に、肉棒からはトロトロと甘美な我慢汁が漏れ出していく。それは射精の前準備であり、彼の、レオとしてのエピローグ、そして新たな自分へのプロローグとしての役割を担っていた。 「さあ、今までの貴様に別れを告げよ。そして、生まれ変わるのだ!」 「うあっ、やばい、出る! すまないっ、父さん、母さん、みんなっ……うあああああああああああっ!!」  レオは、射精した。遺伝子を、記憶を、思い出を、自分自身を。最後に頭の中に駆け巡るのは自分の家族の言葉。立派な俳優目指して頑張ってね、という叱咤激励や、元気でいてね、という別れの言葉。しかしそれらも溢れ出る精子とともに虚無へと変換されていく。  しかし、空っぽになっていくレオの中に新たな記憶や矜恃や使命が入り込んでいく。この世には存在しないはずの架空の日本人の歌舞伎役者の記憶が―― 「……さあ、気分はどうだ?」 「拙者は……拙者の名前は、獅子之助。歌舞伎役者だ」  再び彼が目覚めた頃には、すでに彼の中にレオとしての面影は一切存在しなかった。今の彼は日本で活躍する歌舞伎役者、獅子之助であった。まあ、そんな者はこの世には存在していないのだが。 「よろしい。では、その着物をこちらへ寄越せ。出した精液はこちらですべて回収させてもらう。貴様には、新しい着物を用意するからな……」  精液塗れの着物を一枚ずつ丁寧に脱がしていくと、獅子之助の立派な裸体が露わになった。  細身ながらも男性としての象徴をこれだと言わんばかりに強調した彫刻のような肉体。まさに日本男児として生まれてきたかのような理想的な体に、男は無意識にごくりと固唾を呑んでいた。 「ふむ……では、新たな日本の遺伝子、どのようなものか確かめさせてもらおうか」  そういうと男は獅子之助の陰茎を口に含む。亀頭にこびりつく恥垢の匂いを感じながらそれを丹念に舐めとっていく。濃厚なチーズのような風味がしたが、これはおそらく『獅子之助の元の体』の残滓だろうと男は思った。 「んっ、んんっ……はあっ」  小さな声をあげて喘ぐ獅子之助。しかしそんな彼には目もくれず、男は一心不乱に獅子之助の肉棒をしゃぶる。唾液で泡を作り獅子之助の快感を促すと、獅子之助の声は段々と大きくなっていく。 「何をっ……これ以上は……出るっ……!」  そんな獅子之助の科白を合図に、男はフェラチオの勢いを更に強める。勢いよく顔を前後させ亀頭を中心に舌先で彼の肉棒を責める。漏れ出る我慢汁は、もう間違いなくレオのものではなく、獅子之助のものであり、男はそれを身をもって味わうのだった。 「くっ……駄目だっ、はあっ!」  そしてとうとう獅子之助が絶頂を迎える。濃厚な白濁液が男の口の中を満たす。男はその精液を一気に呑み込んだ。その濃厚さに相応しい苦味と、新たに生まれ変わったことを裏付ける新鮮さは男をその魅了するには充分であった。 「……うむ。なかなかだな。名実ともに貴様が立派な日本人として生まれ変わったということがわかった」 「はあっ、はぁ……そうか……」  男は精液で汚れた着物をハンカチで拭うと、全裸のままの獅子之助を連れてシャワールームへと向かった。これから身を清め、新たな着物を纏い、歌舞伎役者としての職務を全うするために。   ◆ 「さて、準備は済んだ。貴様はこれから歌舞伎役者として様々な者を魅了するため舞台へ向かえ。技術や知識は私達が植え付けた。まず問題なく熟せるだろう」 「分かった。では、拙者はすぐに初公演に向かうとしよう……」  その後、某国のトップ俳優が行方不明になるという事件が起きた。人気絶頂の俳優の突然の失踪は当然ながら世界中を震撼させ、当時はマスコミがこぞって彼の失踪を取り上げた。しかしそんなセンセーショナルな騒動も一年経つ頃には鎮静化し、人類は彼が失踪したことなど過去のものであったかのように忘れ去っていったのだった。  ……彼の家族や知り合いを除いては。  そして、それと同時に流星のように現れたとある歌舞伎役者が登場一年で頭角を現し今や日本ではその名を見ないことはないほどにその知名度を上げていった。  彼の名前は獅子之助。未来の名優と呼ばれる男であり、かつてカリスマ俳優と呼ばれていた男である――   完


More Creators