ライスシャワーがコチョコチョでトレーナーを蹂躙する話 下
Added 2021-09-30 00:46:21 +0000 UTC金曜日のことである。 ライスシャワーはその日、どうにも胸騒ぎがしていた。 一日中、トレーナーがソワソワしていたからだ。 彼の汗には、濃密なストレスの匂いが混ざっていた。 (大丈夫かな、お兄さま) ライスシャワーがトレーナーをくすぐる主な理由は、彼の身体をまさぐるためだ。指で肌触りを確認し、頭の中に刻みつけるためである。 しかし、自分のコチョコチョが巡り巡って、彼のストレスを減らすのであれば、それに越したことはない。 ライスシャワーにとって、トレーナーは性愛の対象であったが、同時に大切な人でもある。 彼にはいつまでも健康でいてほしいし、幸せでいてほしい。その願いも、本物だ。だからこそ、ライスシャワーは力づくで彼を組み伏せるような真似はしないのだ。 だからこそ、今日のトレーナーの様子は気がかりであった。 自然、足がトレーナー室に向いていた。 深呼吸をして、ドアをノック。返事を確認し、入室する。 トレーナーが、一人で書類作業をしていた。 「お兄さま」 「ん? どうした、ライス」 「今日の、ことなんだけど。……何か、あったの? ストレスの匂いが、凄く、強くなってたけど」 「えっ!?」 トレーナーはどういう訳か、顔を赤くして、それから言った。 「す、すまん。実は、明日の用事が気になっててな。それで、ちょっとその……心乱されてたのかもしれないな」 「明日の用事?」 彼はハッとした。「しまった」という顔だ。 ライスシャワーは、トレーナーが自分に対して何かを隠していると感じた。 心に不定形の嫌なものが膨らんでいく。 彼が自分に対して隠し事をすることは、よくないことだ。 ライスシャワーとトレーナーの間には、三年間で培った濃密な絆がある。 隠し事は、その絆を裏切る行為だ。 「明日、何があるの」 ライスシャワーは小首を傾げて、出来るだけ穏やかな声で言った。口元に微笑さえ浮かべていた。 自分がそういう表情をすれば、そういう声音を遣えば、目の前の愛しい人は安心する。 ライスシャワーは彼の行動パターンを把握していた。 安心すれば、警戒も和らぐものだ。 きっと「ライスになら言ってもいいか」と、そう考えるだろう。 案の定、トレーナーは少しばかり逡巡した。 それから、おずおずと言った。 「じ、実はな。明日、水族館に行くことになってな」 「水族館? ……ライスも行っていい?」 「あ、いや……えっと」 トレーナーは言葉を選んでいるようだった。もにょもにょと不明瞭な声を発してから、彼は言った。 「実は、明日は桐生院トレーナーと行かなきゃなんだ。だから……」 ライスシャワーは理解した。 朝から彼の様子がおかしかった理由についてだ。 (お兄さま、明日、桐生院さんに水族館に付き合わされるんだ。そっか、それはストレスだよね) 桐生院のことを思い出す。 自分のトレーナーにいやらしい視線を向けるあのヒトメス。 彼女と一緒に水族館を回らないといけないのだという。 (もしもライスがお兄さまの立場だったら、ゾッとしちゃう) あんな卑しい女に、じっとりと視姦されながら休日を潰したくない。 心底、そう思う。 (どうにかして助けなきゃ) ライスシャワーは意を決して、トレーナーを見た。 「お兄さま? ライスから、桐生院さんに言ってあげようか?」 「え? ……何をだ?」 彼が戸惑いの表情を見せる。ライスシャワーは相手を安心させるよう、優しい笑みをこぼした。 「お兄さまに、つきまとわないでって」 「え?」 トレーナーは目をパチクリさせていた。 きっと、あまりの嬉しさに動揺しているのだろう。それもそうだ。信頼できるウマ娘から、苦手な人間を遠ざけてあげると、提案されたのだから。 ウマ娘の膂力は、人間をはるかに上回る。圧倒的な暴力が振るえるという事実は、実際に暴力を振るわずとも威圧になる。 威圧を十分に含んだ言葉は、絶大な効力を持つ。 きっと桐生院は抵抗するだろうが、その時は少し怖い目を見せてやればいい。 ライスシャワーは心が浮足立つのを感じた。 桐生院を排除できれば、トレーナーは喜ぶだろう。絆はいっそう深まる。 恋仲まで、一歩前進だ。 なのに。 「な、何でだ?」 トレーナーは、怪訝な顔をした。 ライスシャワーは小首を傾げた。 「え? ……だって、お兄さまは桐生院さんのこと、苦手でしょ? 桐生院さんを前にすると、いつも凄く動揺してるよね?」 むわっと、臭いが湧いた。 トレーナーの方からだった。 動揺だ。玉のような汗が滲み出ている。 濃厚な匂いに、ライスシャワーは思わずくらりときてしまいそうになったが、何とか踏ん張った。 そんな彼女に、トレーナーはやけに紅潮した頬を掻きながら、言った。 「あ、いや。……俺が桐生院さんを前に動揺するのは、苦手だからじゃないよ」 「……え?」 ライスシャワーは、自分の中の昂ぶりが全部氷に変わってしまったような気がした。 ぞっとするような悪寒が、全身を舐めた。 とても嫌な予感がした。 反射的に、耳を塞ごうとした。 でも、出来なかった。 塞げば、認めることになる。 今から、彼が紡ぐ言葉が、自分に絶望を与えるものだと。 そんなはずはない。 だって、ライスはお兄さまの愛バだから。 お兄さまと一緒に走って、困難を乗り越えて、皆のヒーローになった凄いウマ娘だから。 お兄さまが、そう言ってくれたんだ。 そんなお兄さまが、ライスにひどいこと言う訳ない。 ライスを裏切る訳ない。 無数の思考。その全てが、彼女の五体を縛りつけた。 信じろ。彼との三年間を信じろ。あり得ない。その三年間が幻想だなんて。 トレーナーは、恥ずかしそうに言葉を紡いだ。 「俺さ。桐生院トレーナーが、好きなんだ」 「あ」 ぶちぶちと、脳味噌が音を立てて引きちぎれていくような気がした。 刃のように冷たい絶望が、五臓六腑をめった刺しにしていくような感覚。 心臓が、肺が、胃が、腸が、肝臓が腎臓が膵臓が卵巣が子宮が、冷たい血の海に溺れて悶えているような感覚。 「あ」 痙攣をおこしたように、切れ切れの声が喉から溢れる。 「ら、ライス? 大丈夫か?」 心配そうな目を、彼が向けてくる。 トレーナーは優しい。どんな時であっても、自分のことを想ってくれる。 この三年間だってそうだった。 桐生院よりも、自分と一緒にいる時間が長かったはずだ。 彼と話した時間も、彼が見てくれた時間も、自分が一番多かったはずだ。 彼はこの三年間、他のどんな存在よりも、自分に対して心を砕き、頭を悩ませてきたはずだ。 そのはずなのだ。 そんな日々が降り積もって、ようやく掴んだ栄光だし、形作られた絆なのだ。 その絆を、あんな女が引きちぎれるはずがない。 お兄さまはあの女を前にしたら汗に動揺を滲ませていた。 それだけあの女が嫌いだった。 ライスがあの女を嫌いであるように、お兄さまもあの女が嫌いだった。 嫌いだった。 嫌いだった。 ライスと同じ思いだった。 俺さ。桐生院トレーナーが、好きなんだ。 「あ。あ。あ。あ。あ。あ゛」 どうして、桐生院さんを選んだの。 どうして、ライスじゃなくて、あんな卑しい女を。 耳が側頭部にあって、尻尾も生えてなくて、力も弱い走るのも遅いお兄さまのために何もしてない女を。 ぎゅるぎゅると、頭蓋骨が音を立てるような気がした。 底なしの深淵を満たすような、底なしの絶望が、ライスシャワーの小さな体に押し込まれた。 その真っ黒な情報量を受け止め切れるほど、彼女は強くなかった。 「あ゛う゛え゛」 瞬間、嘔吐していた。 びちゃびちゃと、トレーナー室に汚い音が響く。すぐに、酸っぱい匂いが立ち昇る。 トレーナーの声が遠い。震えた声。不安そうな声。動揺した声。自分を心配している声。 自分の小さい背をトレーナーの手が触る。 ごぶり、ごぶりと、吐瀉物が喉を通って落ちていく。 ライスシャワーは泣いていた。 自分の中に、こんな汚物が詰まっていることを、トレーナーに知られてしまった。 (ライス、こんなに汚かったんだ) 背中を擦るトレーナーの手が温かい。その熱に縋るように、自分の臓器が蛆虫みたいに蠕動するのを感じる。 そんな自分の身体が、酷く汚れているように思う。 (駄目。駄目だよ、お兄さま。ライスに触らないで。汚れちゃう。お兄さまが汚れちゃう) トレーナーを汚したくなかった。 汚してしまえば、今まで自分の耐えてきたことが、全て無駄になると思った。 組み伏せなかった。嫐らなかった。犯さなかった。 全部、トレーナーを汚さないためだ。 その一線を引くことで、ライスシャワーは救われていた。 自分は汚くない。少なくとも、あの桐生院よりはマシだ。そう思っていた。 ここで汚してしまえば、もう、終わる。 自分の守ってきた、あるいは、守ってきたと思い込んでいた、全てが。 「う゛ううっ! う゛ううううううっ!!」 ライスシャワーは泣きながら、トレーナー室から逃げていた。 走る。 咳きこみながら走る。 泣きながら走る。 壊れながら走る。 走って。 走って。 すごく、苦しくて。 気持ち悪くて。 吐きそうになって。 視界が霞んで。 そして、倒れた。 (あ、これ、過呼吸だ) いつかの、春。 メジロマックイーンに勝利した瞬間、無数のため息の幻聴に包まれて、肺が絶望に溺れた。 その時の、症状。 その時と違うのは、彼が抱きしめてくれないこと。 光が、ゆっくりと消えていく。 闇に、落ちる。 「ライスちゃん!」 それを、破る声があった。 女の声だ。 この世で最も憎い女の声。 桐生院葵が、ライスシャワーを抱き留めていた。 「ライスちゃん、大丈夫!? どうしたの!?」 背中を擦りながら、彼女が言った。 (どの口が言うの) 切れ切れの息の隙間に、憎悪が満ちる。 この女を、今すぐにでも殺してやりたいと思う。 だけど。 桐生院の腕は、暖かくて。 桐生院の声は、震えていて。 桐生院の目は、ライスシャワーを真っ直ぐ見つめていた。 敵意はない。 嘲弄もない。 どこまでも澄んで、朝露に揺れる美しい水面のような、誠実な瞳。 綺麗な瞳。 (ああ、良い人なんだ) すとんと、心臓に杭を打たれたような、敗北感。 まだ、嘲られるなら良かった。 この前のように、刃のような敵意を向けられるなら良かった。 でも、彼女はライスシャワーを心配していた。 その額には汗が浮かび、その瞳は揺れている。頭の中で、ライスシャワーをどうすれば救えるか必死に考えているのが、すぐに分かる表情。 清らかな善性。 きっと、それが桐生院の本性なのだ。 この卑しい女の、本性。正体。 だから、トレーナーは彼女に恋をしたのだろう。 だから、トレーナーは自分を選んでくれなかったのだろう。 想い人を頭の中で凌辱し、恋敵を軽蔑し、その癖いざ敗北したら受け止めきれず嘔吐までした、汚れ切った自分を。 「ライス!!」 背後から、男の人の声がした。 トレーナーの声だった。今にも血を吐きそうなほど、ぜえぜえと荒い息を吐いている。 ウマ娘の疾駆に必死で追いついたのだから、当たり前だろう。 そんなになってまで、それでも、追ってきたのだ。 (ライスを、心配してくれたんだね。お兄さま) 嬉しい。 申し訳ない。 死にたい。 「トレーナー!」 「あ、桐生院さん! すみません、ライスを介抱して下さってたんですか!?」 「いえ、さっき出会ったばかりで……と、とにかくライスちゃんを保健室に!」 「そ、そうですね! ら、ライス! とりあえず、俺の背中に乗れ! そんで、ゆっくり息をしろ! ゆっくりでいいからな! 大丈夫だからな!」 トレーナーの広い背中。 暖かい。 良い匂いがする。 服越しに筋肉を感じる。 想い人の身体の感触。 腹の底が、疼く。 「……ライス? 泣いてるのか?」 「ごめんなさい……汚くてごめんなさい……。お兄さまを……汚しちゃって、ごめんなさい」 「だ、大丈夫だよライス。嘔吐なんて、誰でもするさ。汚くないって。ライスは、汚くないよ」 トレーナーの優しい声が心を撫でる。 彼の脚が保健室を目指して走り出すのが分かる。 桐生院が彼に併走するのが分かる。 その瞳はきっと、綺麗なのだろうと思う。 とても、清らかな二人だった。 とても、汚れた一人だった。 土曜日。 ライスシャワーは、トレーナーの家にいた。 「明日、どこか遊びに行こうか」と聞かれたのが、昨日のことだ。 ライスシャワーが保健室に運ばれ、どうにか過呼吸が収まるまで、彼は付きっきりで看病してくれた。 背中を擦ってくれたし、手を握ってくれた。彼の掌が、泣けてくるほどに温かくて、ようやく落ち着いたのは夕方になってからだ。 そんなライスシャワーを、トレーナーが誘ったのだ。 リフレッシュのためらしい。 ライスシャワーの心に、知らず知らずのうちに負担を掛けていた。だから、それを解消したい。 そんな理由だった。 「良いの?」とだけ、彼女は尋ねた。 本来であれば、その日は桐生院と水族館に行く予定が立てられていた。 想い人との大事なデートだ。 それをなしにしてしまっても良いのか。 暗に、そう尋ねた。 その問いに、トレーナーは頬を掻きながら、口元を引きつらせた。笑顔を見せてるつもりなのだろう。ライスシャワーを安心させるために。 不器用な笑みを浮かべ、彼は「ライスより大事なもんなんて、あるもんか」と言った。 そう言われたのが、嬉しくて。 でも、それはきっと恋人や想い人に向ける『大事』とは異なるもので。 ライスシャワーは、微笑みながら、涙を流した。 そして、「どこでも良いの?」と尋ねた。 彼は頷いた。 お兄さまの家に行きたいと、言った。 彼は少し目を丸くしてから、それでも穏やかに頷いた。 だから、ライスシャワーは今、トレーナーの家にいる。 (お兄さまのおうち、初めて来た) マンションの一室である。 広くも狭くもない。そこまで散らかっている訳ではないが、隅々まで綺麗に片付いている訳でもない。そんな部屋だ。 (桐生院さんをおうちに呼ぶときは、もっと頑張って片付けるのかな) そんな考えが過る。 心の揺らぎを、溜息と共に吐き出す。 今更、こんなことで傷ついても仕方がない。 (もう、ライスは負けたんだから) それなのに、想い人の部屋に来たのは、決着をつけるためだ。 この自分の中にある、不毛で不純な恋心に、止めを刺すためだ。 ライスシャワーは今日、トレーナーに告白するつもりでいた。 まるで、しばらく前に見た悪夢をなぞるように。 もっとも、今回は拒絶されることが目的なのだが。 (お兄さまに気持ちを伝えて、振ってもらおう。そうすれば、気持ちに区切りを付けれる。元のライスに……お兄さまと二人三脚で、皆に幸せを届けるライスに戻れる) 自分に、言い聞かせた。 気を抜くと、苦いものがこみ上げてくる。泣きそうになる。その程度には、まだ、辛い。 でも、仕方ないのだ。 仕方ない。 ライスは汚くて、お兄さまは清いから。 「ライス? どうした、ぼーっとして」 「え? あ……ごめんなさい」 いつの間にか、視線が虚空を彷徨っていたらしい。 まるで、傷つき腫れあがった心が、身体からはみ出してしまったようだ。 「いや、良いんだ。ただ……やっぱり、疲れてるのかなって」 トレーナーの瞳に、不安が滲む。きっと、彼の脳裏には昨日のライスシャワーが浮かんでいるのだろう。 突然嘔吐し、過呼吸を起こし、憔悴しきったちっぽけなウマ娘。 だから、ライスシャワーは微笑んだ。精一杯。 「ううん。大丈夫だよ。心配かけてごめんなさい、お兄さま」 「本当か? 無理、してないか?」 「してないよ。だから……うん。いつも通り、接してほしいな」 分かっている。 ライスシャワーは理解している。 こんな風にお願いすれば、トレーナーは断れない。 何か違和感を抱いたとしても、ひとまず飲み込んで、言うことを聞いてくれる。 「……分かった」 案の定、トレーナーは頷いた。 それから、彼は「あ、そうだ」と呟いた。 「今日、ライスが家に来るって言ってたからさ。人参ゼリー、買ってたんだ。食べるか?」 彼が優しく言う。 人参ゼリー。甘い、人参ゼリー。 それを、彼は買ってきたという。 甘いものを食べれば、気持ちも安らぐと思ったのだろう。 まるで子供扱いだ。 仕方ない。 そういう三年間だったのだろう。 そういう絆だったのだろう。 桐生院にはなれなかった。 「……うん」 「了解」 トレーナーが立ち上がり、キッチンに向かう。 彼のアパートは、部屋とキッチンとが扉で隔たれていた。 自然、ライスシャワーだけになった。 改めて、部屋を見回す。 本棚。机。テレビ。様々な家具。それぞれから、彼の匂いがする。 特に、ベッドは濃厚だ。 トレーナーの体臭が、奥の方までしみ込んでいるようだった。 ぐつり。 ぐつり。 腹の底が、甘く煮える。 「……」 少し躊躇い、しかし、結局は立ち上がっていた。 ゆっくりと、ベッドに近づく。 匂いが近づいてくる。 とさっと、座る。 ライスシャワーの尻に圧され、トレーナーの香りが、シーツからふわりと湧いた。 男の芳香が、鼻腔を撫でる。 ぐつぐつと、下腹部が茹る。 右の掌で、シーツを撫でた。 まだ、暖かいような気がする。 「……これぐらいなら、大丈夫だよね」 自分に言い聞かせるように呟いて、ベッドをまさぐる。 掌とシーツの温度が均一になり、溶け合ってしまったと思えるようになるまで、撫でる。 そっと、離す。 撫でた掌を、嗅ぐ。 ねっとりと、トレーナーの匂いがする。 欲望が、鎌首をもたげる。 「……大丈夫、大丈夫。お兄さまを汚すことにはならない」 言い聞かせるように、呟いて。 撫でた掌を、べろりと舐める。 ほんのりと、汗の味がするようだ。 トレーナーの味。 「……大丈夫。大丈夫。……ん。じゅる。ちゅぷ」 自分の指を、舐める。 舌を這わせる。 しゃぶる。 その度に、ベッドから掠め取った彼の体温が、口の中に溶けるような気がする。 「大丈夫。大丈夫。大丈る。大ひょう夫。んじゅ。じゅぶ。じゅぷぷ。じゅるっ」 美味しい。 甘くも辛くも苦くもしょっぱくもない。 なのに、確かに味蕾が喜んでいる。 心臓が、ドキドキする。 血がどんどん、身体を巡る。 その癖、頭がトロンとしてくる。 ぐちゅり。 びくんと、身体が跳ねた。 理性が体の中に戻ってくる。 左の指先が、濡れていた。 唾液ではない。舐めているのは、右の手だ。 左の指先が、何かに触れていた。 ライスシャワーは、自分の指先がどこに触れているか、見た。 絶望した。 (ライス、何しようとしてたの?) 想い人のベッドの上で。 汚してはならない聖域の上で。 彼女の白い指は、濁った粘液でぬるぬるとしていた。 涙がこぼれる。 本当に、終わっている。 トレーナーは良い人で、善い人で、清くて、聖い。 そんな彼の寝床を、自分は汚そうとしたのだ。 「う……うぅぅぅ……!」 ライスシャワーはベッドに突っ伏した。 芋虫のように身をよじる。涙と鼻水でシーツを汚さないよう、自分の腕に顔を擦りつけるようにして。 そのうち、何かにぶつかった。 ぼんやりと、顔を上げて、そちらを見る。 壁だった。 トレーナーのベッドの側面と接している壁だ。 何をするでもなく、呆けたように、見つめる。 ふと、気付いた。 ベッドと壁の隙間に、闇がある。 闇に、何かある。 「……」 手を伸ばしていた。 指先に、触れる。 厚みがある。 引っ張って、取り出す。 ライスシャワーは、目を見開いた。 それは、雑誌だ。 ただの雑誌ではない。 いやらしい、雑誌だった。 (お兄さまが、こんな……エッチな本を) どっ。どっ。 心臓が脈打つ。 首筋の血管が怒張するようだ。 耳鳴りがする。 体が熱い。腰が疼く。 ライスシャワーは、昂っていた。 いやらしい本に対して、ではない。 トレーナーが、いやらしい本を持っていたことに対してだ。 (ライスが来るから、隠したのかな。……あれ?) すんすんと、嗅ぐ。 (この、匂いって) 鼻を押し付けて、一気に吸い込む。 「……んふーっ。……んふーっ」 間違いない。 彼はこの雑誌を『使っている』。 (お兄さまの匂いだ) 脳髄が果汁のように電流を分泌した。 記憶が引きずり出される。 一週間に、一回か二回。彼からほんのわずかに、漂ってくる臭い。 青い精臭。 ライスシャワーは、トレーナーが自慰をする事実は知っていた。 だけど、それはどこかリアルでなかった。 残り香しか、嗅いだことがなかったからだろう。 現物を、あるいは現場を見たことがなかった。 だから、彼からうっすらと漂う生臭さを、汗とも尿とも違う香りを、『そういうもの』かもしれないと、判別していたに過ぎなかった。 何より。 その匂いからは、彼が精を放ったという事実しか分からない。 何に欲情し、何に精を放ったか。 そこまでは、分からない。 だからこそ、ライスシャワーの中で、彼は清らかだった。 でも、これは。 「ふぅーっ! ふぅーっ!」 興奮に震える指先で、ページをめくる。 いやらしい画が、次々と目に飛び込んでくる。 女と男が、いやらしいことをしている画。 いやらしい台詞を吐き、いやらしい恰好をして、いやらしい行為をしている画。 鼻をひくつかせながら、のめり込む。 臭う。 臭う。 彼のいやらしい臭いがする。 ふと、手が留まる。 視線が、釘付けになる。 鼻をひくつかせる。 一枚のページに、意識が奪われる。 いやらしい女がいた。 黒髪の女。耳を出している、短いポニーテールの女。 本人ではない。 しかし、似ている。 桐生院に似た女が、いやらしく乱れている絵。 彼が自分以外の女を想って、自慰をした事実は忌々しかった。 だけど、それ以上に。 (そっか。お兄さまも、ライスと一緒なんだ) ひどく、嬉しくて。 その喜びが、次の瞬間、吹き飛んだ。 見つけたのだ。 そのページの端。 染みがあった。 端の部分がごわごわしていた。 どくんと、心臓が跳ねる。 口の中が涎でいっぱいになる。 その染みが何なのか、一瞬で分かった。 とても、いやらしい臭いがしたから。 「んふーっ! んふーっ! すぅうっ! すぅううううううううううううううううっ!!」 本能のまま、犬のように鼻を擦りつけて嗅ぐ。 より濃い精臭が、一気に肺に流れ込んだ。 理性が明滅する。トプトプと、獣欲が滲んでくるのが分かる。 「ふぅーっ!! ふぅーっ!! んっ……れぇ」 くちゅりと、ライスシャワーの口が音を立てた。 唇が開き、ぬるぬるとテカった舌が、伸びる。 そのピンク色の先端が、ゆっくりと、ごわごわした部分に近づいていく。 「はっ!! はっ!! はっ!! はっ!!」 浅く湿った呼吸を繰り返す。 透明な粘液を滴らせながら、舌先がいやらしい本に近づいていく。いやらしい本に付着した、いやらしい染みに近づいていく。 あと、三センチ。 二センチ。 一センチ。 ガチャリと、ドアノブの回る音が聞こえた。 「っ!」 咄嗟に、雑誌を隙間に落す。ベッドからも降りようとするが、それよりも早くトレーナーが入ってきてしまった。 ライスシャワーは、顔を伏せた。 「ごめん、スプーン探すのに手間取ってた。……あれ? どうした、ライス? 眠くなったか?」 ベッドの上にいるライスシャワーに、彼は目をパチクリさせながら尋ねてきた。それから、手に持った二人分のゼリーを、ベッドの下にある机に置いた。 「大丈夫か? 食べれるか? ゼリー」 心配そうに眉をひそめながら、穏やかな声で言う。 笑顔はなくとも、節々から善性が滲んでいる、いつもの彼だ。 でも。 この雄は、あんないやらしい本を持っている。 「お兄さま」 ライスシャワーは、口を開いた。 トレーナーを見ることなく、彼女は言った。 「コチョコチョ、したい」 「え?」 彼の表情に、若干の緊張が走った。先日のことを忘れてないのだろう。ライスシャワーに失禁寸前までくすぐられたことを。 そんなトレーナーに、ようやく彼女は顔を上げた。 泣きはらした顔だった。 さっき、彼のベッドを汚しかけた時に、こしらえたものだ。清らかなものを、自分で汚しかけた罪悪感で、流した涙。 清らかなものを。 清らかだと、思っていたものを。 「駄目? ライスに、コチョコチョ、されたくない? お兄さま」 今にも泣きそうな目で、縋るように言う。 トレーナーは、言葉に詰まったように呻き、首を横に振った。 「い、いや。そう言う訳じゃない。ただ、びっくりしただけだ」 「本当? じゃあ、させてくれる?」 「い、良いよ」 ライスシャワーはにっこりと笑った。 その涙に濡れた瞳は、少しも揺れることなく、トレーナーを見つめていた。 「ありがとう、お兄さま。じゃあ、ベッドに寝てくれる?」 「え? わ、分かった」 彼は少し怪訝な顔をしつつも、ライスシャワーの言葉に従い、ベッドに横たわった。 その胴を挟むようにして、彼女が膝立ちになる。 マウントポジション。 ライスシャワーは、微笑みながら、トレーナーと視線を交えた。 とろりと、粘着質な眼光が溢れる。 「そ、それにしても突然だな。こ、今回も俺のリラックスのためか?」 トレーナーが明るい声で言った。 ライスシャワーは理解した。 お兄さまは今、少し、怖がっている。 ライスの眼に、怪しげなものを感じ取ったのだろう。 それでも、彼はライスのことを信じている。 だからこそ、自分で自分を安心させるために、意識的に、朗らかな声を出している。 かわいい。 かわいいトレーナーを、安堵させるために、彼女は頷く。 「うん、そうだよ。お兄さま、ライスのこと心配してくれてるでしょ? でも、そのせいでちょっと緊張しちゃってる。そうだよね?」 ライスシャワーはこれ見よがしに、すんすん、と彼を嗅いだ。 ストレスの匂いがバレてると、示す。 全部全部、バレてる。 バレてるよ、お兄さま。 彼は気まずそうな顔をして、頷いた。 「す、すまん。気を遣わせてしまって」 「大丈夫だよ。お兄さまがライスを心配してくれてるのは、嬉しいから。……でも、緊張しっぱなしじゃ、疲れちゃうよ? だから、ライスが……ね?」 邪気が混ざらないよう、精一杯愛嬌のある笑みを浮かべる。 ライスはお兄さまを傷付けるつもりはないよ? だから安心して、身を委ねてね? 無言で伝える。 言葉にすれば、勘繰られてしまうから。 そっと、指を彼の頬に添えた。 つうっと、撫で下ろす。 首元に、触れる。 そこで少し、くすぐった。 「くっ……ふ……」 トレーナーの口角が、わずかに上がる。 体が強張り、首で指を挟んで、動きを止めようとしてくる。 「駄目だよ、お兄さま。リラックス、だよ」 ライスシャワーは微笑みながら、言い聞かせるように呟く。 「ご、ごめん」 トレーナーがくぐもった声を出して、そっと、顎を上げる。 首に浮いた頸動脈が、無防備だ。 舌を這わせたくなる衝動を抑え、ライスシャワーはその付近を優しくくすぐる。 ぴくん、ぴくんと、指先に彼の震えが走る。 指遣いを変えてみる。 彼の身体が、もっと、強く震える。 ライスシャワーはにっこりと笑う。 「これがくすぐったいんだね、お兄さま」 そして、指を蠢かせたまま、ゆっくりと移動させていく。 鎖骨。 胸。 そして。 「ライス、知ってるよ」 脇腹を、五指で嫐る。 「お兄さまは、ここが弱いんだよね」 彼の身体が、一際大きく跳ねた。 「くっ! ぐふっ! はっ……がはっ!」 トレーナーの唇から、笑い声が漏れ始める。 余程、くすぐったいのだろう。びっくん、びっくんと、波立つように体が揺れる。 その様をライスは見つめる。 紫色の瞳が、彼の身体を閉じ込めている。 口元だけが、笑っている。 「耐えちゃ駄目だよ、お兄さま。もっと本気で笑って」 こちょこちょとくすぐる。 指先に彼の痙攣が染み込む。 しかし、まだ甘い。体に強張りが見える。 無意識のうちに、抵抗しているのだろう。 ライスはゆっくりと、トレーナーの腹に尻を落とした。 押し付ける。 ベッドに釘付けにする。 彼の反応が、尻から腹に上ってくる。 下腹部に染み込む。 ぐつり。 ぐつり。 「まだ笑えるよ、お兄さま。まだまだ、気持ちよく笑えるはずだよ。ほら。頑張れー」 こちょこちょ、こちょこちょ。 びくん、びくん。 ぐつぐつ、ぐつぐつ。 「ぷはっ! がひゃひゃはっ! ごほっ! ら、ライス! やめ、やめて!」 トレーナーが顔を真っ赤にしながら呻く。 笑いすぎて、その目には涙が浮いている。 泣いている。 想い人が、自分の下で泣いている。 泣かせてやった。 ライスが、泣かせてやった。 ふっと、彼の涙が記憶を呼び起こす。 今までの、あらゆるレース。 天皇賞も、宝塚記念も。 お兄さまは、ライスを想って、泣いてくれたな。 だから、彼の涙には自分たちの尊い絆が詰まっている。 清らかなお兄さまの善性が、ライスの心を温めてくれた記憶が、詰まっている。 その涙が、ベッドの上の染みに転がった。 新しい染みだ。 何の染みだろう。 ああ、ライスの唾液だ。 ガビガビになったエッチな本を、舐めようとして溢した、ライスの汚い唾。 汚い唾に、清い涙が染み込んでいく。 ライスとお兄さまが、ベッドの上で溶け合っていく。 ライスシャワーの指の動きが、更に艶めかしく、ねちっこいものに変わった。 責め苦が激しくなる。 トレーナーが更に狂おしく身を捩る。 「ライスっ! らいす! やめっ、ひぃっ、やめて! ゆるひて! やばい、やばいやばいやばい!」 「やばい? 何がやばいの? ライス、駄目な子だから言ってくれなきゃ分からないよ?」 ライスシャワーは自分の下でもがくトレーナーに、じっとりとした視線を垂らした。 その口元には粘い笑みが浮く。 幼児が虫の手足を戯れでもぐ時の、残酷な笑み。 「だ、だから! も、漏れっ!!」 「漏れる? 何が? 言って? お兄さま、何が漏れるの?」 じっとりと、聞く。 手は休めない。 脇腹を苛んでやる。 くすぐったさを注ぎ込む。 ぎゅーっと、トレーナーの腹を尻で押しながら。 彼の反応が面白い。 お腹の奥の方で、何かがびくんびくんと跳ねているのが分かる。 そこで作っているものが、出そうになっている。 「だからっ! そ、そのっ! お、おしっ……こがっ!」 「おしっこ? お兄さま、おしっこ漏らしちゃいそうなの?」 尋ねる。 唾液まみれの言葉で、彼の鼓膜をぐちょぐちょに汚すように。 そんな彼女に縋るように、トレーナーは激しくうなずきながら、言った。 「そ、そうだよ! ふぐっ! だ、だから! ひゅぅっ! ど、どいてくれ! らいっ……すぅ!」 ライスシャワーは。 「お兄さま」 あどけない少女の顔で、優しく微笑んで。 「漏らしちゃえ」 くすぐりを、苛烈にした。 「なっ、なっ、なんっ……で」 トレーナーは顔を真っ赤にしながら、目を真っ赤に充血させながら、身体を痙攣させながら、間抜けな声を漏らした。 目からとろとろと涙が零れている。 ライスシャワーは、花のような笑みを浮かべて、その様子を見下ろしていた。 熱く湿った呼気と共に、彼女は呟いた。 「ごめんね、お兄さま。でも、ライスね。お兄さまに、嘘ついてほしくないの。だから、漏らそ? 汚れちゃお? ライスと同じくらいに」 「なっ。ぁ。な、なに……いって」 荒い息の狭間に、トレーナーが不明瞭な声を混ぜる。その涙に溺れた瞳が、ライスシャワーをじっと見つめてくる。 とても、いやらしい。 「だって、それがお兄さまの本性だもん。おしっこ漏らしても、気にならないぐらい汚れてる。ライスとお揃い」 ライスシャワーは、嬉しそうに言った。 その表情のまま、彼女はトレーナーに顔を近づけた。 吐息が彼の肌を湿らせるぐらい、一瞬で喉笛に齧りつけるぐらい近付いて、囁く。 「ライス、見たよ。お兄さまがベッドの隙間に隠してる本」 「っ」 びっくん! 今までで一番大きく、彼の身体が跳ねる。 否、跳ねようとする。 全部、封じてやった。 ライスシャワーの尻が押し付けられているせいで、彼はベッドから動けなかった。 逃がさない。 彼女は満面の笑みで、トレーナーに語り掛ける。 「本に出てくる人、桐生院さんに似てたね」 桐生院葵。 厭な女だ。 卑しい女だ。 そのくせ、善人。 清らかな女。 清らかなお兄さまに、ふさわしいと思っていた。 でも、清らかなお兄さまなんていなかった。 お兄さまは、優しくて、尊くて、ライスを支えてくれて、信じてくれて。 だけど、清らかなんかじゃない。 だったら、ライスが汚してもいい。 負い目を感じる必要もない。 だから、あの女には渡さない。 ライスシャワーは、嗤った。 「めっ、だよ? 桐生院さんみたいに良い人を、エッチな目で見ちゃ」 トレーナーは自分の両腕で、顔を覆おうとした。 でも、その前にライスシャワーは脇腹を更に責めた。 彼の身体は強張り、両腕で脇腹を守ろうとした。ライスシャワーの両手を、挟んで、止めようとした。 もちろん、止められない。 彼の脇腹は、ライスシャワーの五指が依然として凌辱している。 それでも、ほとんど反射的に、両腕が追いすがってくる。 やめて、やめて。 虐めないで、虐めないで。 ライスシャワーの小さな掌に懇願するように。 だから、顔は晒されたままだ。 罪悪感と羞恥で、くしゃくしゃに歪んだ彼の顔は、晒されたままだ。 あますことなく、正面からじっくり見つめる。 慈しむように、辱めるように、視線で犯す。 「ね? 恥ずかしいよね? お兄さまはとっても恥ずかしいことしてたんだよ? そんな人が、桐生院さんと釣り合う訳ないよね? ね?」 言葉で嫐る。 視線で嫐る。 五指で嫐る。 「しかも、そんなエッチな本を自分の愛バに見られちゃったんだよ? 今まで二人三脚で頑張ってきたライスに、ガビガビになったエッチな本見られちゃったんだよ? いっぱい、いーっぱい、恥ずかしいよね?」 とても楽しそうに、彼の罪をほじくり返す。 彼が三年間、誠実に誠実に作り上げてきた絆を、彼の目の前でボロボロにしてやる。 トレーナーの呼吸が、更に乱れてくる。 そして。 「ぐすっ」 ついに、トレーナーがしゃくり上げた。 「ひぐっ! う、うぅう! うぅうううう!」 泣いた。 コチョコチョによる強制的な涙ではない。 彼の自尊心だとか、そういう大切なものがズタズタになって、ようやく流れ出す透明な血液のような涙。 勝利の美酒を視線で嘗めながら、ライスシャワーは愉快そうに言った。 「あーあ、泣いちゃった。ライスに本当のこと言われて泣いちゃった。でもだーめ。そこで泣いても駄目だよ」 そうして、ライスシャワーは顔をゆっくり離し、上体を起こした。 そして、尻を動かす。 後ろへ。 後ろへ。 ゆっくりと、下腹部を通り過ぎて。 「ここで泣いて」 股間に、ぐぐぐっと、押し付けた。 トレーナーの呻きが、大きくなる。 ライスシャワーはチロリと、自身の唇を舐めた。 濡れた言葉を、垂らす。 「ほら、早く楽になろう? 頑張って我慢しても、苦しいだけだよ? おしっこ我慢しすぎると、おなかさん痛くなっちゃうよ? ね? ね?」 尻をゆっくりと、前に戻す。 下腹部に。 膀胱の辺りに、すりすりと擦りつける。 「漏らしちゃおう? 汚れちゃおう? 大丈夫。ライスは汚れちゃったお兄さまも好きだよ。だから、ほら。諦めて、じょろろってしちゃえ」 また、顔を近づける。脇腹をなぶりながら、尻で押さえつけながら、彼の視界を自分の顔で埋めてやる。 「おしっこさん、頑張れー。頑張れー。お兄さま、恥ずかしがって我慢しちゃダメ。今更いやいやしても無駄だよ?」 トレーナーの呻きが大きくなる。 びくびくと、尻に彼の痙攣が伝わる。 もう長くない。 ライスシャワーはにんまりと笑う。 「お兄さま、分かってる? バレてるよ? もう、おしっこ、そこまで来てるでしょ? アンモニア臭、隠せてないよ? 我慢は体に毒だし、楽になっちゃおうね。ほら、もーらーせ。もーらーせ」 それでも、彼は耐え続けた。 きっと、それが最後のプライドなのだろう。 今まで一緒に頑張ってきたウマ娘の前で漏らしたら、大切な何かが崩れてしまうのだろう。 ライスシャワーには、そんなトレーナーの心が、分かっていた。 「……もう、強情さんだね。お兄さま。……分かったよ」 だから、彼女は浅く、腰を上げた。 尻が、離れる。 それだけでなく、手も脇腹から離した。 くすぐりが、終わる。 トレーナーと、視線が合う。 彼の眼が語り掛ける。 許してくれるのか。 ライスシャワーは、にっこり笑って。 「……ずどんっ!!」 勢いよく、彼の腹に尻を叩きつけた。 「ぎゅぅううううううううううう!!」 全体重をかけ、腰を捻るようにして、ぐりぐりと尻で膀胱を磨り潰す。 トレーナーは最後に、ヒキガエルのような声を上げた。 ちょろ。 どくっ。 どくどくどくっ。 じわっ。 じわわわっ。 熱い。 尻が熱い。 パンツに熱い液体が染み込んでくる。 臭う。 むわっと、恥ずかしい音と共に、恥ずかしい臭いが湧き上がる。 「ふふ。ふふふ。……すうぅううううううううう! っ……っ………はぁああああああああああああああ!」 これ見よがしに、深呼吸してやった。 アンモニア臭と征服感が、うっとりと、肺を満たしていった。 全てが終わってから、ライスシャワーはゆっくりと腰を浮かして、スマートフォンを取り出すと、無言でシャッター音を立てた。 それから、何食わぬ顔で添い寝をするように、ベッドに横たわった。 「あーあ。ライスも濡れちゃった。二人でお漏らししたみたいになっちゃったね」 耳元で囁く。 今撮った写真については、何も言わない。 言葉にしないほうが、きっと、トレーナーの中に強くこびり付く。 握られた弱みが、どこまで恐ろしい事態を引き起こすのか。 その不安は、彼が勝手に育ててくれるだろう。 「……」 トレーナーは何も言わない。 その目は虚だ。 涙の跡が、まだ新しい。 「ごめんね、お兄さま。ライス、意地悪しちゃったね。でも、お兄さまも悪いんだよ。お兄さまが桐生院さんと同じぐらい清らかだったら」 そこで言葉を切り、彼女は少しだけ、寂しげな顔をした。 「……ライス、ちゃんと諦めてたのに」 スリ、とトレーナーの体に、額を擦り付ける。 目を閉じる。 許しを乞うように。 しかし、それは一瞬だった。 「でも……お兄さまは、エッチな人だもんね。桐生院さんを想ってしちゃう、いやらしい人だもんね。だから、ね?」 どろり、と暗いものが胸に凝る。 これから、どうなってしまうだろう。 拒絶されるだろうか。 恐怖されるだろうか。 そんな彼を、組み敷いて抱き潰せば、さぞ気持ちいいだろう。 「ライス、お兄さまとしたいこと沢山あるんだ」 汚してやる。 「良いよね? お兄さまはいやらしいんだから、どれだけ滅茶苦茶にしても」 汚してやる。 汚してやる。 初めから汚れてるなら、どれだけ汚したって構わないはずだ。 清らかなふりしやがって。 報いを受けろ。 ライスを騙してた報いを受けろ。 夢の再現をしてやる。 妄想の再現をしてやる。 お兄さまにはライスがお似合いなんだ。 「ねえ、お兄さま」 ライスを見ろ。 「好きだよ」 ライスと番え。 ぽふりと、頭を温かいものが撫でた。 「え」 ライスシャワーは目を見開いた。 トレーナーが、彼女を撫でていた。 その目は、悲しげで、しかし、優しい。 拒絶も、恐怖もない。 「ごめんな、ライス」 ゆっくりと、彼が言う。 「お前のこと、助けられなかったんだな。俺は」 口元に、あるかないかの微笑があった。 トレーナーの顔に滲む、自発的な笑み。 優しげな、自嘲。 ライスシャワーは何も言えなかった。 ただ、自分が取り返しのつかないことをしたのだと、その笑みを見て思った。 机の上の二人分のゼリーが、綺麗な汗をかいて、隣り合っている。 (もっとちゃんと、笑ってほしかったな) 頬に、一滴の涙が垂れた。 それをドロドロの舌で掬い取り、そのまま、彼の唇にねじ込んだ。